HFpEF治療におけるSGLT2阻害薬の位置づけ | べーリンガープラス


英アストラゼネカ社は11月10日、「」(一般名:ダパグリフロジン、米国での製品名:Farxiga)の大規模な心血管アウトカム試験(CVOT)であるDECLARE-TIMI58試験の良好な全試験結果を発表した。この結果は、米国・シカゴで開催中の米国心臓協会(AHA)学術集会2018において発表され、同時に「New England Journal of Medicine」に掲載された。


フォシーガは、ナトリウム・グルコース共輸送体2に作用するファーストインクラスの選択的阻害剤(SGLT2阻害剤)。成人2型糖尿病患者の食事、運動療法の補助治療としての血糖コントロールの改善を適応として、経口1日1回投与で単剤療法または併用療法の一環として使用される。フォシーガの臨床プログラムは、終了済みの試験を含め3万5,000例以上の患者を対象とする35件以上の第2b/3相試験から構成。同剤は、現在までに180万患者年以上に処方された。なお、日本において同剤の心血管イベント、、心不全の抑制、もしくは慢性腎臓病治療薬としての適応はない。

アストラゼネカ株式会社と小野薬品工業株式会社は11月26日、都内でSGLT2阻害剤フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)の大規模な心血管アウトカム試験であるDECLARE-TIMI58試験に関するメディアセミナーを開催。日本糖尿病学会理事長で東京大学大学院医学系研究科糖尿病・生活習慣病予防講座特任教授の門脇孝氏と、日本循環器学会代表理事で東京大学大学院医学系研究科循環器内科学教授の小室一成氏が講演した。

前者は若い人、後者は高齢者中心に行われている。 3つの大規模臨床試験でSGLT2阻害薬の心血管疾患抑制作用を確認

DECLARE試験は、世界33か国の1万7,000名超の患者を対象にした、これまでで最も大規模なSGLT2阻害剤の心血管アウトカム試験。主要評価項目のひとつである心不全による入院または心血管死の複合評価では、フォシーガ群はプラセボ群に対して、有意に17%のリスクを減少(4.9%vs.5.8%;ハザード比[HR]0.83[95%信頼区間(CI):0.73-0.95],p=0.005)。心不全による入院または心血管死の減少は、心血管リスクを有する患者群ならびに心血管疾患の既往歴のある患者群を含むすべての患者群において一貫して認められた。さらに、もうひとつの主要評価項目である主要心血管イベント()は、フォシーガ群で発現頻度は少なかったものの、統計学的な有意差は認められなかったという(フォシーガ群8.8%vs.プラセボ群9.4%; HR0.93[95%CI:0.84-1.03],p=0.17)。

また、安全性の主要評価項目である、心血管死、心筋梗塞または虚血性脳卒中を含む複合評価項目のMACEにおいて、フォシーガ群はプラセボ群と比較してリスクを増加させず、プラセボ群に対する非劣性を示し、これまでに確立されたフォシーガの安全性プロファイルと一貫した結果が確認されたとしている。また、副次的評価項目は名目上の有意差ではあるが、腎の複合評価項は対象となった広範な患者において、フォシーガ群はプラセボ群に対して、腎症の新規発症率または悪化率を24%減少した(4.3%vs.5.6%;HR0.76[95%CI:0.67-0.87])。また、全死亡はフォシーガ群においてより低い頻度だった(6.2%vs.6.6%;HR0.93[95%CI:0.82-1.04])。

アストラゼネカは2022年11月8日のプレスリリースで、第III相DELIVER試験において、フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)によって駆出率が軽度低下または保持された心不全患者の症状の負担感および健康関連の生活の質(QOL)を改善したと発表した。

第III相DELIVER試験の事前に規定された解析結果から、プラセボ群と比較して標準治療にフォシーガを追加した併用療法(フォシーガ群)で、症状負荷、身体的制限およびKCCQ平均スコアによる評価においてQOLが改善した。こちらは治療開始から1ヵ月という早期の治療ベネフィット達成となっていた。このベネフィットは8ヵ月時点でも維持されており、プラセボ群と比較して、総症状スコアで平均2.4点、身体的制限で1.9点、臨床サマリースコアで2.3点、全体サマリースコアで2.1点の改善が認められた(すべてp<0.001)。また、8ヵ月時において、プラセボ群と比較してフォシーガ群で大幅な悪化を示した患者さんは少なく、多くの患者さんで、評価したKCCQドメインすべてにおいて健康状態の改善を示し、スコアの軽度(5点以上)、中程度(10点以上)、大幅(15点以上)な増加が確認されている。第III相DELIVER試験におけるフォシーガの安全性および忍容性プロファイルはこれまでに報告されたプロファイルと一貫していた。

結果に関しては2022年米国心臓協会学術集会(AHA2022)で発表、Journal of the American College of Cardiology誌に掲載されている。

アストラゼネカは「フォシーガ錠5mg、10mg(一般名:ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物、以下フォシーガ)」の添付文書が改訂されたことを機に、「慢性心不全治療に残された課題と選択的SGLT2阻害剤フォシーガが果たす役割」と題して、2023年3月2日にメディアセミナーを開催した。

セミナーでは、はじめに阪和病院・阪和記念病院 統括院長・総長 北風 政史氏より、「慢性心不全治療の現状とDELIVER試験を踏まえた今後の展望」について語られた。

日本では、主な死因別死亡において心疾患による死亡率が年々増加しており、2021年では14.9%と、がん(26.5%)に次いで多かった。心疾患の中でも心不全は5年生存率が50%と予後が不良な疾患であることが知られている。

心不全は左室駆出率(LVEF)の値によって、3つの病態(HFrEF:LVEF40%未満、HFmrEF:LVEF40%以上50%未満、HFpEF:LVEF50%以上)に分類されるが、これまで治療法が確立されていたのはHFrEFのみであった。しかし、このたびDELIVER試験により、フォシーガがLVEFにかかわらず予後を改善するという結果が示され、添付文書が改訂された。

・幅広い層を対象にしている
組み入れ時にLVEF40%を超える患者(組み入れ前にLVEF40%以下であった患者も含む)を対象とした。
・投与開始後早い時点で有効性が示された
主要評価項目である主要複合エンドポイント(心血管死、心不全による入院、心不全による緊急受診)のうち、いずれかの初回発現までの期間は、フォシーガ10mg群でプラセボ群と比較して有意に低下し、この有意なリスク低下は投与13日目から認められた。
・LVEFの値によらず有効性が認められた
全体集団とLVEF60%未満群で、主要複合エンドポイントのうちいずれかの初回発現までの期間を比較したところ、フォシーガ群におけるリスク低下効果が同等であった。この結果から、LVEF60%以上の心不全患者にもフォシーガが有効であることが示唆された。

現在、HFpEFの薬物療法におけるSGLT2阻害薬の位置付けは、海外のガイドラインではIIa、国内ではガイドラインへの記載はない。しかし、DELIVER試験などでHFpEF治療におけるSGLT2阻害薬の知見が蓄積された今、ガイドラインによる位置付けが変更される可能性がある。

続いて矢島 利高氏(アストラゼネカ メディカル本部 循環器・腎・代謝疾患領域統括部 部門長)より「慢性心不全領域におけるダパグリフロジンの臨床試験プログラム」について語られた。

矢島氏はDAPA-HF試験とDAPA-HF/DELIVER試験の統合解析結果について解説し、DAPA-HF/DELIVER試験の統合解析によれば、LVEFの値によってフォシーガの有効性に差はないことが示されていると述べた。

今回、フォシーガの効能または効果に関する注意が、LVEFによらない慢性心不全に変更されたことで、今後、慢性心不全治療がどのように変化していくか注視したい。

■参考文献
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本試験はAstraZenecaの資金提供を受けた
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本試験はAstraZenecaの資金提供を受けた
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本論文作成に当たっては、AstraZenecaの資金提供を受けた